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松岡正剛の千夜千冊・1574夜

松岡正剛の千夜千冊・1574夜
フランス・ドゥ・ヴァール『共感の時代へ』

URL> https://1000ya.isis.ne.jp/1574.html


 つまりこのチンパンジーたちは、石ころがトークンであることに気がついたのである。わかりやすくいえば石ころが代行している価値のようなものを見抜いたのだ。
 ぼくはこの実験の映像をTEDで見たのだが、虚を突かれた。それから、悪知恵があるのはサルではなくて、サル学者なんだとも知った。そして、そのうち深く頷けるようになっていた。うーん、これは半世紀以上も前に今西錦司(636夜)が言ったこと、「動物にだって文化があるんや」そのものではないか、と。

TED「良識ある行動をとる動物たち」URL>
https://www.ted.com/talks/frans_de_waal_do_animals_have_morals?language=ja
 トマス・ホッブス(944夜)は人間の本性を「ホモ・ホミニ・ルプス」と呼んだ。「人間は人間にとってのオオカミ」であるという意味だ。戦争の歴史や企業競争の実態や学校での「いじめ」の報告に付き合わされていると、たしかにそういう気がしてくる。
 ダーウィンは進化には生存競争があり、そこには自然淘汰がはたらいていることを実証した。これをハーバート・スペンサーが「適者生存」と言い換えて社会にあてはめ、社会進化論にした。アジアと南半球を除く列強世界は、この適者生存を掲げ、地球を欧米化することに邁進し、たちまちアフリカ分割に群がった。こんなところに共感があるはずがない。

 それだけではなく、続いてミルトン・フリードマン(1338夜)らがこの考え方を極度に発展させ、それを金融界がとりこんで、マッドマネーの活用も辞さない「新自由主義」化をはかることになった。

 このような流れのなか、いつのまにか「利己的な遺伝子」のようなものが拡大解釈されて、社会経済的な大活躍をするようになっていた。
 とはいえ、このようなシナリオはいつも満足をもたらさないこともはっきりしていた。少数の勝ち組と、そして多くの負け組をつくっていくだけであるからだ。富はやたらに片寄るのだ。いま話題のトマ・ピケティの『21世紀の資本』(みすず書房)は、今日の富の大半が僅か1パーセント以下の者たちによって独占されていることを、厖大な歴史データによって実証した。
 その僅かな勝ち組にだって落とし穴が待っている。たとえば、エンロンの有名CEOだったジェフ・スキリングは、ドーキンス(1069夜)の『利己的な遺伝子』の忠実なファンとして、社内に「ランク&ヤンク」(ランクを付けつつ首にしていく)を導入し、あっというまに成長したのだが、その実、内部ではぞっとするような不正行為をはびこらせ、外部に対しては情け容赦ない搾取力を敢行したため、2001年にがらがらと内部崩壊していった。成績主義の敗北だった。それも利益を唯一の価値とした度過ぎた成績主義だった。

 たとえばモーリス・メルロ=ポンティ(123夜)は「私は他者の表情の中に生きているし、他者も私の表情の中に生きているような気がする」と書いていたが、そういう見方が欠けてきたのではないか。


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「良識ある行動をとる動物たち」の日本語訳・全文 URL>
https://www.ted.com/talks/frans_de_waal_do_animals_have_morals/transcript?language=ja