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松岡正剛の千夜千冊・1566夜

松岡正剛の千夜千冊・1566夜
米盛裕二『 アブダクション - 仮説と発見の論理 - 』
URL> https://1000ya.isis.ne.jp/1566.html

 さて、チャールズ・パース(1182夜)はこのようなことについて、とっくにこう書いていました。「アブダクションは説明的な仮説を形成する過程である。それは新しいアイディア(観念)を導く唯一の論理的操作である。それというのも、帰納はひとつの値を決めるにすぎず、演繹はまったくの仮説の当然の帰結を生むだけであるからだ」と。

 ただし、この本は必ずしも明快ではない。詳細でもない。だから適宜、補っていきます。むろんパースの著作からの引用を米盛さんのものと一緒に随時組み込んでいくのですが、ほかに今夜の狙いにいくらかあずかりそうな、たとえばウィリアム・デイヴィスの『パースの認識論』(産業図書)、イヴァン・ムラデノフの『パースから読むメタファーと記憶』(勁草書房)、有馬道子の『パースの思想』(岩波書店)、それに加えてリチャード・ローティ(1350夜)の『プラグマティズムの帰結』(お茶の水書房→ちくま学芸文庫)なども補います。

 編集工学は、まさに“3A編集工学”とでも言いたいほどに、「アナロジー、アブダクション、アフォーダンス」の3つのAを方法として重視しています。とくに編集工学の実際の作業プロセス(editing process)では、アブダクティブ・アプローチを採用しているところが少なくありません(アフォーダンスについては1079夜などを読んでください)

 このような驚くべき特徴は、アブダクションには「飛躍」(leap)があるということを示していると言えます。

 ふつう、問題にとりかかってしばらくは、その問題の中心部にあることばかりを追いかけるでしょう。それはもちろん必要なのですが、同時にそこにまじっている異質性にも注目する必要があるのです。これは九鬼周造(689夜)が「いき」と呼んだものにもあたります。