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松岡正剛の千夜千冊・6夜

松岡正剛の千夜千冊・6夜
ジョナサン・グリーン
『辞書の世界史』
 辞書編集者のことをレキシコグラファーという。この言葉が最初につかわれたのは1658年である。
 ちなみにここでレキシコンというのはこの手の単語や意味の編集物の総称であって、細かくいえばグロッサリー(単語集)、ボキャブラリー(語彙集)、レキシコン(辞書辞典)に分かれるし、その辞書辞典にしても母国語で著される辞書と一言語の説明が別の言語で説明されるもの、言葉単位と事項単位に分かれるもの、新語や俗語の重視などに分かれるもの、あれこれまことに多様なのである。が、ここでは都合でレキシコンにしておく。
 なかでぼくの好みでちょっと風変わりなものだけをあげると、シノニマ(同義語)とエクィウォカ(多義語)に関心を寄せたフランスのガーランド一族の『学者の辞典』(1508)がすばらしい。いまでこそこの着想は珍しくないが、これこそ「コノテーション」(内示)という機能への大胆な介入だった。
参考¶…こういうレキシコンをレキシコンするレキシコグラファーが日本にはまだいないのが残念。大槻文彦『言海』の誕生の苦闘を生き生きと描いた高田宏の『言葉の海へ』(岩波同時代ライブラリー)あたりで、日本の辞書誕生の黎明を偲んでもらうしかないようだ。
日本語のレキシコグラファーについての最近では紀田順一郎が一挙に『日本語発掘図鑑』『日本語大博物館』『図鑑日本語の近代史』(いずれもジャストシステム)を刊行して目を賑わせてくれている。ちなみに、ぼくはこのようなことを一番よく知っているのは、日本語を考え抜いている井上ひさし ( 975夜 ) さんではないかと思っている。