松岡正剛の千夜千冊・204夜
トーマス・ライト
『カリカチュアの歴史』
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しかし、神々はずいぶん前から笑われていた。プリニウスによると、アペレスの弟子クテシロはゼウスを滑稽な神として描くのが得意だった。
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帝政ローマの没落期は詩や演劇よりも歌が流行し、その歌がみだらなものになっていく。デカダンな帝国末期では立派な芸術作品よりも歌や踊りが流行するのは当然で、それこそ人間らしいことなのだが、そこがキリスト教には許せない。はやくも笑いの弾劾に乗り出した。4世紀に、すでにアウグスティヌス ( 733夜 ) がこれらの歌や踊りを「忌み嫌うべきもの」とよんだのを先駆として、312年のマインツの宗教会議、589年のナルボンヌの宗教会議でも、歌舞音曲を「くだらぬもの、かつ悪魔的なもの」と規定した。
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本書を読んでよくわかったのは、中世社会に笑いを象徴する6つのキャラクターが並んで躍り出ていたということである。悪魔と、動物と道化と吟遊詩人と、そして愚者と死者。
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衒いはあるが、それは趣味が生きているせいで、読んでいて温かい。
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