松岡正剛の千夜千冊・259夜
斎藤茂吉
『赤光』
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『赤光』は大正2年10月に東雲堂書店から刊行された。茂吉の処女歌集である。
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その制作順の早い時期に「死にたまふ母」が4部構成59首として出てくる。茂吉の母の守谷いくが脳溢血で亡くなるのは大正2年5月23日で、茂吉は危篤の知らせをうけて山形上山(堀田村金瓶部落)に帰郷、火葬ののち悲しみのまま故郷近くの高湯酢川温泉に身を休めて歌を詠んだ。
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あらためて「死にたまふ母」に接して、『赤光』をさあっと流れ読みもし、また茂吉という歌人の生涯を想った。
茂吉が挽歌に長けているのは、いうまでもない。そこが歌の出発点だったからで、しばしば近代短歌の挽歌3傑作といわれる木下利玄の「夏子」、窪田空穂の「土を眺めて」とくらべても、その魂魄において抜頭するものがあった。しかし、茂吉の歌業は挽歌を含んで広大で、かつ無辺なものにむかっていった。
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それにしても茂吉が詰られた「無常観・遁走観」こそは、ぼくが茂吉を読む理由なのである。無常は迅速、けっしてとろくない。かえって意識が速い。復古でもない。無常はまっすぐ向こう側へ駆け抜けるものなのである。(85夜)
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