松岡正剛の千夜千冊・275夜
ティク・ナット・ハン
『禅への鍵』
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エンゲージド・ブディズムという言葉がある。「関与する仏教」とか「参加しあう仏教」といった意味だ。この言葉を世界にもたらしたのがティク・ナット・ハンだった。老師とよびたい。
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それだけでもたいへんな業績だが、教団設立後、ベトナムはアメリカとの壮絶なベトナム戦争に突入し、ナット・ハンは禅僧として苦悩した。が、当時の老師は仏教指導者であるよりも、自身、その僧衣にこだわらず、敢然と反戦運動に立上がった。そして『ベトナム――炎の海に咲く蓮華』や『ベトナムの叫び』といった真摯な本を次々に著して、ベトナム戦争に対する非暴力主義によるガンジー的闘争を呼びかけるに至っている。本書にも書いてあることだが、老師はガンジー ( 266夜 ) を尊敬していた。
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ふつう禅では、教外別伝・不立文字・直指人心・見性成仏といって、禅の本質はとうてい言葉にはならないと教えるのだが、その禅に公案があるように、禅は必ずしも言葉を嫌わない。むしろ言葉と意味をその本体においてぶつけるしくみをもっている。
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次によくつかわれるのが「インタービーイング」という言葉で、これは教団の名称にもなっている。いまふうに「相互依存的存在」と訳せるが(本書もそう訳している)、古典的な仏教用語でいえば「縁起」ということだ。
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チャン・タイトンは13世紀の陳王朝の最初の王で、41歳で王位を息子のチャン・ホアンに譲り、2冊の著作『禅宗旨南』と『課虚』の執筆にうちこんだ。このあたりのことはティク・ナット・ハンの『ハミタージ・アマング・ザ・クラウド』(雲の中の庵)に時代背景とともに解説されている。
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ティク・ナット・ハン Wikipedia> https://ja.m.wikipedia.org/wiki/ティク・ナット・ハン