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松岡正剛の千夜千冊・447夜

松岡正剛の千夜千冊・447夜
上田秋成
『雨月物語』
 ここにおいて江戸文芸は徂徠よりも、上方ふうの狂文狂詩をたくみに獲得するほうに流れていった。そして、銅脈先生こと畠中観斎や寝惚先生こと太田南畝を、さらにはご存知風来山人こと平賀源内などを生むことになった。これが"うがち"の登場である。"うがち"はやがて「通」になっていく。
 待ちつづける女、宮木のひたむきなイメージは、溝口健二が映画『雨月物語』のなかで田中絹代に演じさせて有名になった (84夜) 。溝口が宮木をキャラクタライズするにあたっては、原作にはない大いなる母性をもちこんだ (1026夜) 。そもそも溝口の『雨月』は原作をかなり離れたもので、モーパッサン (558夜) さえ加わっている。
 読者の肌身が凍りつくとき、ここで一転、物語は「蛇性の婬」でさらに深まっていく。
 初めは那智詣での帰途に美しい男女の一対がファンタジックな出会いをおこし、夢とも現(うつつ)ともつかぬうち、ただ一振の太刀だけが残って、昨夜の宴の家が一瞬にして廃屋になる。この廃屋のイメージは、その後の日本文芸や日本映画の原イメージとなったものである。
 廃屋出現の謎は、いったん怪しい者の仕業とわかるのだが、ところが話はそこからで、翌年になってまた男は怪しい女に出会う。しかも女はあの仕業はやむなき仕業で理由があったというために、ついに結婚まで進む。女はしだいに禍々しい正体を指摘され、それなら男も改心するかというと、逆に哀れな女の性に吸引されていくという、徹底して不幸に魅入られた関係が三段階にわたって奈落に堕ちゆく構造なのである。











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