松岡正剛の千夜千冊・469夜
ロバート・パーシグ
『禅とオートバイ修理技術』
〜
バークレーの書店にも、ニューヨークの書店にもどっと並んでいた。まだカリフォルニアにドラッグの香りがぷんぷんしていたころで ( 340夜 )、誰もがイージーライダー気取りだった。
〜
で、まだ70歳になっていないぼくは、いまもまだオートバイ免許ももっていないままなのだが、そのかわり、たくさんのオートバイ野郎と仲良くなった。片山敬済、平井雷太、大倉正之助 ( 866夜 ) はなかでもとびきりである。最近はヤマハをデザインしている石山篤さんと昵懇になって、その深謀遠慮な二輪デザイン哲学「人機魂源」を聞かせてもらっている。
〜
それとともに"哲学書"にもなっている。現実のパーシグと過去の思索を受け持っているパイドロスが近づいてくるにしたがって、「クオリティ」を求めるというパーシグの姿勢が、急速に「無」に向かっていったからである。東洋的な「無」 ( 1041夜 ) への着目である。とくにおもしろかったのは、ついに「無の拡張」こそがこのバイクの旅の目標であり、かつ、パーシグがそもそも試みてみたかったことの本質であったというふうになっていくくだりだ。
〜
とくに、その転移の叙述のあいだに、BMWのR60の修理の場面とか、ボルトとナットの使い方には最初に接触だけで締めるフィンガー・タイトがあって、次に表面の弾力性が吸収されるスナッグがあり、最後にすべての弾力性を吸収しきるタイトという締めがあるといったテクノ談義が随所に入り、さらに…
〜