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松岡正剛の千夜千冊・472夜

松岡正剛の千夜千冊・472夜
花田清輝
『もう一つの修羅』
 しかし、キレはないのに、コクがある。スーパードライではなくハイパーウェットなのである。そういうところが得難い。
 しかし、ぼくはずっと花田をひそかに応援していた。吉本隆明 ( 89夜 ) との論争の最中も、ぼくが肩をもったのは花田のほうだった。それはのちにわかったことだが、花田に「日本の片隅」があったからである。そのことを迂闊にもぼくは気がつかず、本書を読んでやっとそうか、そうだったかと合点した。
 ところが花田はこの坊主のほうに「もうひとつの修羅」を見る。いや、そんな坊主の話をわざわざ載せた安楽庵策伝に「もうひとつの修羅」を見る。その修羅は戦場で命をやりとりする修羅ではないが、そのかわりなんだか「せつないまでの際」に追いこまれた者の修羅である。