松岡正剛の千夜千冊・599夜
江戸川乱歩
『パノラマ島奇談』
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乱歩はこの光景を「行くとみえて帰り、登るとみえて下り、地底がただちに山頂であったり、広野が気のつかぬ間に細道と変わったり、種々さまざまの異様な設計が施される」とか、「来てはならないところへ来たような、見てはならないものを見ているような気持ちになる」というふうに作中に説明している。
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この美意識は、似たようなユートピック・ファンタジーの古典的名作であるコナン・ドイル ( 628夜 ) の『失われた世界』やジュール・ヴェルヌの『地底旅行』とは、何かが根本的にちがっている。それは乱歩は徹底的に「みかけ」を重視したということだ。
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まず探偵小説をつくった。探偵小説なら乱歩となった。明智小五郎と怪人二十面相をつくって、怪しいドッペンゲルガーなら乱歩ということになった。性的に卑しい欲望をもつ心情の持ち主を主人公において、どんなエログロも乱歩につながるようにした。加えて、どんな犯罪者も江戸川乱歩の見解と関係があるかもしれないという錯覚を築き上げた。
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