松岡正剛の千夜千冊・676夜
野口晴哉
『整体入門』
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真壁君にはぼくがアプローチした。フロッタージュ作家でもあった彼の「美術手帖」に載った作品がおもしろく、それで連絡を入れて出会ったのだが、すぐに彼が身体的なるものをもフロッタージュの対象にしていることが見えてきて、そんな話をしていると、実は「活元」や「愉気」を訓練しているんだと言う。
ふーん、それはどういうものかと聞くと、野口晴哉という天才がいて、そういう整体法を工夫したのだという。たとえばね、ここをこういうふうに曲げてと言って、すぐにやってくれた。
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なぜ野口の意志をこえて広まったのか。野口が主題ではなく、思想ではなく、方法を開発したからなのである( 158夜 ) 。野口は「方法の魂」を残したのだ。野口自身はその方法を早くに開発していたから、そののちはむしろ人々の「思い」( 263夜 ) や「和」( 491夜 ) や「覚醒」( 550夜 ) を期待しただろうけれど、創発者からみれば追随者というものは、いつだって勝手なものなのだ。
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野口が重視したのは、人が意識をしないで思わず動いている体の動きだった。向こうから来る自転車を思わず避けられる体の動きである。雪の日に転びそうになりながら歩いているとき、人はそのような運動をする。これを「錐体外路系」の運動というらしい。
われわれはこのような自由な動きを、ふだんは殺している。そして一人一人が不自然な「体癖」をつくりあげ、それで「病気だ、調子が悪い」と騒いでいる。( 146夜 )
野口は、この体癖をこえるための錐体外路系の運動をふだんから準備しておくべきだと考え、その準備体操を「活元」と名付けた。
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