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松岡正剛の千夜千冊・1410夜

松岡正剛の千夜千冊・1410夜
文藝春秋5月特別号
『東日本大震災・日本人の再出発』
長明や荷風は原発や放射線を知ってはいない。
知っていなくとも、自然と社会の限界を見抜いていた。
ところが、それを知っているはずのわれわれが、
まだ十冊の『方丈記』さえ書けないままなのだ。
「無常迅速」と書くのが、怖いのだ。
その東京の“話ついで”になるが、矢部史郎に『原子力都市』(以文社)があって、これがなかなか意味深長だったので、一言、紹介する。
 エッセイ集で、中越沖地震が震度6強で柏崎刈羽原発を襲ったあとの柏崎を訪れた話から始まっている。…
柏崎の住民たちですら自嘲気味に「ここには何もない」と言うことの意味を観察し、そこが「見えない東京」になっていること、日本中にそのような「原子力都市」がはびこっていることを描いていく構成になっている。
 矢部はそうなった理由を「過剰と欠落がない」とも、「difference(差異)が蒸発し、indifference(無関心)が覆っている」とも書いていた。
 矢部によると、このような「嘘と秘密の大規模な利用」は人間と世界との関係そのものを変え、「感受性の衰弱と無関心の蔓延」を促進するという。なぜそんなふうになるかといえば、巨大な“indifference”が都市の新たな規則そのものとなっていくからである。