松岡正剛の千夜千冊・1432夜
小田実
『被災の思想・難死の思想』
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本書は3・11にまつわる一冊ではない。
小田実が1・17の体験にもとづいて書いた一冊だ。
阪神淡路大震災から東日本大震災へ。
いや、名称はどうでもいい。
この16年のあいだ、
いったいわれわれは何を学んできたのか。
本書を読むと、ただただ愕然とするにちがいない。
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☆☆被災者は避難所に入ってから生活基盤を失っていくのだということが、よくよくわかった。かれらは被災して住宅を失ったのではなく、生活を失ったのだ。
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☆☆ボランティアの活躍についても、小田は懸念を表した。ひとつは長田地区ばかりにボランティアが集中して、その活動にほとんど広がりがなかったこと、もうひとつはボランティア活動が政治の怠慢や無責任を隠蔽する楯として使われてしまっていること、これらに関する懸念だ。
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☆☆そもそも「防災モデル地区」とか「防災モデル都市」とは何のことなのか。しかもそれを採択するにあたって、住民を適当に参加させた「審議」でコトを済ませるのはよくない。お手盛り計画はやめなさい。被災してからのモデルづくりはまちがいをおこしやすい。平時のときに行政と住民が徹底したモデルをつくるべきだったのである。
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☆☆緊急時に最も重要なものは「情報」である。人々が助け合うことはなにより重要だが、ついでは人々が情報交換をすることが重要なのだ。テレビのワイドショーはこのことがわかっていない。
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日本は「国」と「民」とが切れていると、小田は言っているのである。そうだとすると、日本国民とはかなりの空語だということになる。『被災の思想・難死の思想』の「あとがき」にも、小田は大震災後における日本で最も大切なのは、復興や援助ではなくて、日本が「人間の国」に再生あるいは転換できるかどうかというただ一点にあるというふうに書いた。
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