スキップしてメイン コンテンツに移動

松岡正剛の千夜千冊・1513夜

松岡正剛の千夜千冊・1513夜
池田純一
『ウェブ文明論』
 本書は『ウェブ文明論』というタイトルになっている。はたしてウェブを“文明”と称びうるかどうかはまだ疑問だが、著者の池田は、アメリカがウェブ社会をつくりだした(254夜)という視点から、ウェブの来し方もウェブの行方も(1162夜)昨日と明日のアメリカ文化をどう論ずるかということに符合するはずなのだから、それを論じれば今後の世界文明の問題(1083夜)も見えてくるのではないかという立場をとった。
 下敷きになったのは司馬遼太郎(914夜)の『アメリカ素描』だ。
 池田はこれを下敷きに、その「アタシの」性、つまり「ミー文化」(1047夜)こそがウェブ技術とウェブ社会をつくったというふうにみなしたのだ。
 アメリカは自国の歴史を、どんなときもアメリカ建国の精神にもとづいて回顧するのであって、人類全体の歴史の回顧などによっては語らない。あくまでも「アタシの」がつくった歴史の継続が語られる。そういうものなのだ。
 それはトマス・ピンチョン(456夜)やスティーヴ・エリクソンのように、アメリカの過去を改編するシミュレーションをもって新たな物語を提供する場合すら同じことで、…
 いまウェブを前提にしたソーシャルメディアがマスメディアに代わろうとしている。テキストの流通可能性はどんどん拡張し(1479夜)、情報交換力と文書アーカイブ力(545夜)が膨大なものとなり、そのなかでフェイスブックに代表されるような「ミー文化」がネットワークを侵食しはじめた。
 ★3Dプリンターの登場はPC(パソコン)からPT(Personal Technology)への移行を仄めかす。これはシリコンバレーからシリコンアレーへの移行に対応するだろう。アレー(alley)とは路地のことである。日本は日本流のアレー(755夜)で勝負するといい。