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松岡正剛の千夜千冊・1556夜

松岡正剛の千夜千冊・1556夜
辻芳樹
『和食の知られざる世界』
和食がユネスコの無形文化遺産になった。
フランス料理、地中海料理、メキシコ料理、
トルコ料理に次ぐ5件目だ。
 外人たちはカリフォルニアロールに代表されるように、アレンジされた和食テイストには大いに反応する。カリフォルニアロールはアボカドやレタスをマヨネーズで味付けして海苔を巻いた巻き寿司だ。
 かくて欧米でも和食っぽいものが次々に大当たりしていくのだが、辻さんはそこには3つほどの「変わり種」がベースになってきたと言う。
 Aは「ギミック和食」である。これはカリフォルニアロール型のものだ。
 Bは「ハイブリッド和食」とでもいうもので、和食には見えないのだが、実は日本の料理技術を外国料理の文脈に入れていった逸品も少なくない。パスカル・バルボがやってみせたように魚介類のスープに昆布ダシを入れたり、フェラン・アドリアがスペイン料理屋の「エルブリ」で葛や寒天をスペイン風味に入れこんだような例だ。
 そしてCが「プログレッシブ和食」というもので、和食の素材から風味技能までいかして新たな和食を本気で世界に問うというものだ。
 和食の風味のルーツはなんといってもダシにある。ダシの語源は「煮出し」の「出し」から派生した。
 そのもとは、鰹ダシと昆布ダシをまぜて一番ダシを“発明”したことにある。これが「吸い地」になってその後のさまざまな風味(旨み)がつくられた。そのもとは、ずっとずっとひるがえっていえば日本列島に黒潮と親潮がまじって豊富な魚介類をもたらしたことにある。
 ぼくは「割主烹従」(かっしゅほうじゅう)に和食のインテリジェンスがあらわれていると思っている。日本料理の板場を見ればわかるように、和食の調理では食材を切ることを煮炊きから自立させるほどに重視する。「割く(切る)」ことが第一義で、「烹る(煮る・焼く)」はそのあとの手続きなのだ。これが巷に灯りをともす「割烹」(かっぽう)の語源とさえなっている。
 あらかじめ食べやすいように切っておくこと。それを箸でつまめば口にはこべるようにしておくこと。和食の和食たるゆえんが、ここにある。 






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