松岡正剛の千夜千冊・1644夜
山中俊治
『デザインの骨格』
〜
運転士はさまざまな工夫で操作技能の身体化をはかっている。モーター音に反応する、加速を尻で感じる、周辺の光景をすべて憶えておく、天候との関係を理解できるようにするなど、けっこうな工夫が多い。ぼくはF1レーサーの鈴木亜久里から、F1レーサーに必要なことは動体視認力の訓練から全身の柔らかさの自覚までいろいろあるけれど、体がすべて運転席にロックされた状態なので、最も敏感になるべきなのはお尻の穴なんですと聞いたことがある。
〜
さまざまな試行錯誤(リバース・エンジニアリング)をしたようだが、「手前に少し傾いて光っているアンテナ面」をデザインすればいいということが判明した。こうして山中はそこから「傾斜13・5度」を割り出したのである。
〜
プロダクトデザインというもの、その本質は「擬」(もどき)なのである。「擬」はたんなる「ものまね」や「シミュラークル」のことではない。世阿弥(118夜)の「物学」(ものまね)やガブリエル・タルド(1318夜)の『模倣の法則』が動いている。たんに真似をするのが「擬」なのではなく、「奥をまねる」がモドキの本質だ。もっと正確にいえば、擬くことによって、その器物の発生に立ち会い、場合によっては新たな器物発生の生態系の端緒になっていくこと、その覚悟をすることが「擬」なのだ。
〜
〜