スキップしてメイン コンテンツに移動

松岡正剛の千夜千冊・1609夜

松岡正剛の千夜千冊・1609夜
マイケル・ポーラン
『欲望の植物誌
〜人をあやつる4つの植物〜』
 この本には4つの植物が登場する。リンゴ、チューリップ、マリファナ、ジャガイモだ。作物といってもいいけれど、植物学的には栽培種というものだ。
21世紀の今日、この4つの作物はかつての姿をしているとはかぎらない。変質が過ぎたのだ。何がおこったのか。人間は何をおこしてきたのか。
 ということは、花は「文明の比喩」なのである。ユリは貴婦人、バラは情熱、アネモネは希望、コスモスは調和、フリージアは純潔、ポインセチアは高揚、アイリスは恋、ランは娼婦、ラベンダーは誘惑、シクラメンは嫉妬、そしてガーベラは神秘で、その花粉をはこぶハチたちは「空飛ぶペニス」なのである。
 かくてポーランは言う。神がエデンの園でアダムとイヴから隠そうとした「知恵の木」は、ひょっとして「麻薬のなる木」だったのではなかったのか、と。
 しかし、モンサント社が先頭を切ったのだが、遺伝子組み換えのGMO食品と除草剤ラウンドアップとBt遺伝子とを組み合わせてしまったということは、もはや食生活が「管理された情報を食べる」という生態系の段階に突入したことをあらわしていた。それなら、ここには文明思想としての新たな検討が加わる必要があったのである。