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松岡正剛の千夜千冊・1646夜

松岡正剛の千夜千冊・1646夜
ジャロン・ラニアー
『人間はガジェットではない
 〜IT革命の変質とヒトの尊厳に関する提言〜』
 なぜファイルが問題なのか。ファイルというソフトプログラムは、人間が興味をもったり表現したりするものは必ず小さなクラスター(かたまり)に切り離すことができるという考え方にもとづいて設計されている。そのクラスターは必ずヴァージョンがあり、それらを操作するにはファイルのためのアプリとマッチしていなければならないというふうになっている。
これではまずい。人間がファイルに見合うガジェットになっていく。人間にひそむ可能性が切り刻まれて、どんどんマッシュアップされていく。
 この本は、21世紀に入ってからデジタル革命の展開ぐあいがかなりおかしくなっていることを告発した一冊だ。
 どうでもいいような匿名のコメントがふえ、思いつきの動画をつかったつまらないおふざけが流行し、ふまじめなマッシュアップが罷り通っているのはまだしも実害がないとしても、ネット総体としてのコミュニケーションがだんだん貧相になり、ネットに登場していくときのユーザーの人間性が下品になっていったことが目にあまる。
いいかえれば、個人ユーザーがネットにかかわっているときの相手は、ソーシャル化された集合値という化け物でしかないということなのである。
もうひとつ老婆心ながら付け加えておきたいのは、この手の集合知と、なんと集合的無意識(Colective unconscius)やセレンディピティ(serendipity)がごっちゃになるときさえあるということだ。これはもっとむちゃくちゃだ。