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松岡正剛の千夜千冊・755夜

松岡正剛の千夜千冊・755夜
中上健次
『枯木灘』
 白州の夜話はぎくしゃくとしか進まない。そのときの車座には他の話し手(高山登とか)もいて、話題は右往左往した。それでもある時間になって二人の会話になった。きっかけは「松岡さん、あんたは小説を書かないのか」というのである。
 書かないとも、書けないとも、いずれ書くかなと言うのもぴったりこないので、「メタな物語 ( 241夜 ) を先に書いちゃいそうだから、小説にはならないかな」と言うと、さあ、待ってましたとばかりに、「どういうことだよ?」と突っこんできた ( 408夜 ) (どうでもいいことだが、中上とぼくは2歳ちがい)。
 もともとぼくは「物語の物語」 ( 577夜 ) というものに関心をもってきた。「場所」にも執着に似た関心をもってきた。だいたいぼくが最初に書いた連載が「遊」の『場所と屍体』なのである。 ( 10夜
 したがって、仮にもぼくがいつか小説を書くとしたらどんなものになるのかは、いまもって見当がつかないままなのだ。
 しかしそれだけに、そのぶん、マルケスやクンデラや中上の「物語の物語」の実現にはただひたすら脱帽してしまうのだ。
 さあ、そこで、たとえば中上の『枯木灘』なのである。
 この物語は表向きは異様なサスペンスに富んだ作品になっているかに読める。それも路地の一隅に蟠(わだかま)る複雑な血のサスペンス ( 657夜 ) であるのだが、ところがそれが作品の内側のほうにとことん抉(えぐ)られていて、一様ではない。
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映像・原作「中上健次」URL> https://moviesindex1.blogspot.jp/search/label/中上健次