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松岡正剛の千夜千冊・1010夜

松岡正剛の千夜千冊・1010夜
阿木譲
『イコノスタシス』
 音楽、とりわけロックは、そこに去来する暗喩と影像がもたらす母型の流出 ( 216夜 ) なのである。ちょっと付け加えれば、そこにはたいていメランコリアの逆説とノスタルジアの逆転 ( 482夜 ) が仕組まれている。けれどもその二つの出所は、意識とも無意識ともつかないあたりの出所そのものが漂泊するのであって、だからこそそこに、聖痕とも病根とも感じられる対立物の合致が高速で動いていく。
 ALTERNATIVE TV=「オルターネイティヴ・ティヴィはジョイ・ディヴィジョンやスロッピング・グリッスル以上に重要なバンドだった」「共同体の最後の夢を、かれらは実行し音楽化している」(そう、この言い方だ)。ついでさらに「マーク・ベリーとデニス・バーンズの曲にジェネシス・P・オーリッジが参加してバスウェイ・サウンドスタジオで収録されたこのアルバムこそ、名盤と呼ばれるものだ。普遍的な時代を超した音楽だ」と言っておいて、「ジェネシス・P・オーリッジはステージ上で割れたガラスの破片の鋭い先を顔に近づけ、そして口を開き、吸いはじめる」という、まるでトルーマン・カポーティの冷房装置のような一言 ( 38夜 ) がコーダに入る。