松岡正剛の千夜千冊・1700夜
鎌田茂雄
『華厳の思想』
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で、1700夜は何の本を選ぼうかなと思っていたのだが、しばらく前から華厳に関する一冊をとりあげようと決めていた。すでに681夜で『華厳経』をとりあげたのだけれど、これは韓国の高銀(コ・ウン)が善財童子による「入法界品」(にゅうほっかいぼん)を下敷きにして書き上げた小説の作品名だった。今夜は鎌田茂雄さんの『華厳の思想』にした。華厳全般の特色に及んでみたいのである。
鎌田さんは中国仏教の専門家で、ぼくはずいぶん影響も受けたし、指南もうけた。ぼくの華厳理解はほぼ鎌田さんの導線と回路によるものだ。ちなみに1300夜は『法華経』を、1400夜は『アラビアン・ナイト』を、1500夜は柿本人麻呂をとりあげた。
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だから華厳は、一言でいえば融通無礙の教えなのである。「礙」(碍)というのは「さまたげ」や「傷」や「邪魔」のことだから、華厳の世界観で円教無礙になるとは、妨げる礙が互いになくなっていくことをいう。相互に柔らかく交じりあっていくことが融通で、無礙なのである。
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義湘の入唐の様子は、明恵(みょうえ)上人とその一門のグループが丹念に描いた華厳絵巻こと『華厳宗祖絵伝』の義湘伝にやや悲恋ふうに讃えられている。
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華厳のことを知りたいと思ったのは、禅と書に遊んでいたころのことだ。ある日、大乗禅の師家である秋月龍珉さんが「あのね、大拙の本質は華厳にあるんですよ」と言った。ぼくは高校生の頃から大拙の仏教の掴まえ方や説明っぷりが大好きだったので、へえ、そうなのかと思っていろいろ読んでみると、たしかに晩年の鈴木大拙(887夜)は文章や講演の中で華厳世界と禅の関係のことをたびたび言及して、「禅は華厳の子である」とか「大乗禅は華厳をやらなければ見えてこない」といった説明をしきりにしていた。
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