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松岡正剛の千夜千冊・1725夜

松岡正剛の千夜千冊・1725夜
ノーマン・メイラー
『ぼく自身のための広告』
 早稲田の素描座の演出家だった上野圭一のアパートに遊びにいったとき、本棚に数々の演劇書や文芸書にまじって目の高さの真ん中あたりにノーマン・メイラーの数冊が並んでいた。タイトルが変わっている。手にとってパラパラした。
 以上がメイラーとのかかわりのすべてだ。今夜は小説ではなくて『ぼく自身のための広告』(新潮社)と『一分間に一万語』(河出ペーパーバックス)をとりあげる。どちらも山西英一の訳で、メイラーの速射砲のような凝った英語をみごとに日本語にしていた。
ノーマン・メイラーのインタビュー記事
「宇宙の中心は勇気である」
『遊 1003号』に掲載。
アメリカの若者を熱狂させた4人
ジェームズ・ディーン[左上]
エルヴィス・プレスリー[右上]
ジャック・ケルアック[左下]
アレン・ギンズバーグ[右下]
ビートニク中心人物
左から「オン・ザ・ロード(路上)」を書いたジャック・ケルアック、詩集「吠える」を発表したアレン・ギンズバーグ、小説「裸のランチ」のジャンキー作家ウィリアム・バロウズの3人。
 ロイ・コーンとは、赤狩り時代の検察官から弁護士に転身して、ニクソンやレーガンを支え、不動産王ドナルド・トランプの特別弁護をしつづけた男だ。ゲイであることを隠したその日々は、のちにアル・パチーノ主演の『エンジェルス・イン・アメリカ』になって、数々の賞をとった。今日のトランプの「アメリカン・ファースト」はメイラーとコーンの矛盾の密約の上に成り立ったものなのである。
 メイラーは他人の才能を見抜くのもピカイチだった。彼がぞっこんだったのはトルーマン・カポーティ(38夜)で、その次の次あたりがヘミングウェイ(1166夜)だったのだが、そういう他人の才能を見抜く目で「ぼく自身」を見る。それがやたらにうまい。むろん「いいとこどり」をするわけだ。
 では「いいとこどり」ばかりで悦に入っているのかというと、かつてのメイラー批判の文章や質問票もちゃんと配列させていく。つまりは敵と味方の両方のボクシングのリングを必ず作ってみせるのだ。