スキップしてメイン コンテンツに移動

松岡正剛の千夜千冊・1679夜

松岡正剛の千夜千冊・1679夜
ハマラヴァ・サダーティッサ
『ブッダの生涯』
 ちなみに仏伝についての本はそうとうにあるが、とくにルナンの『イエス伝』のような定番はない。日本では古くは中村元『ゴータマ・ブッダ』(春秋社)、水野弘元『釈尊の生涯』(春秋社)、増谷文雄『仏陀』(角川書店)、早島鏡正『ゴータマ・ブッダ』(講談社)など、最近ならジャン・ボワスリエ『ブッダの生涯』(創元社)、ヴエロニック・クロンベ『ブッダ』(大東出版社)、並川孝儀『ゴータマ・ブッダ考』(大蔵出版)、前田專學『ブッダ』(春秋社)、吹田隆道『ブッダとは誰か』(春秋社)などだろうか。
 なお、今夜の図版はボワスリエの『ブッダの生涯』(創元社・知の再発見双書)を借りた。この本も手元におきたい一冊だ。
 そのころ、近所にスジャーターという娘がいた。身ごもっていて、もし男の子が産まれたらバニヤンの木に特別なごちそうをこしらえて捧げようと思っていた。バニヤンは気根が幹に成長して逞しくなる樹木なので、古代インドでは神聖視されていた。
 男の子が産まれたので、スジャーターは大事な作業にとりかかった。100頭の牛から乳を搾り、これを50頭の牛に飲ませ、その乳を25頭の牛に飲ませ、8頭の乳になるまでキーラ・カンマ(乳仕事)という濃縮作業をした。ついでこの乳で米を炊いて金の器になみなみと入れる。このキーラ・パーヤーサ(乳粥)をバニヤンの木に捧げるのである。
 最後の準備のため召使いをバニヤンの木のところへ行かせたところ、召使いはそこに黄金色に輝く者がじっと坐っているので、驚いた。ガウタマがそこにいる。…